ゴー宣DOJO

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切通理作
2011.4.1 01:47

「不謹慎」でも生きている

最新第21回がUPの『せつないかもしれない』では収録する前、冒頭に震災で被害に遭われた方へのねぎらいや犠牲になった方にご冥福をお祈りする言葉を入れるかどうか、小林よしのりさんと相談しました。

全部が全部、ゴー宣道場の動画にそういう挨拶が入っているのもいかがなものか。渡部陽一さんがそのあたりのことは心をこめてやっているので、『せつないかもしれない』ではいつも通り明るくやろうよ、と小林さんにおしゃっていただき、その通りだと思いました。

ところが実は冒頭の、ゲストが登場する前に枕的な話題をする部分を、一度収録した後に撮り直しています。

番組パートナーの女優・しじみさんは今回の震災が最初に起きた11日の翌日、12日にも映画の撮影に出かけ、いつも通り仕事を頑張っていました。
僕はむしろ、仕事人としてたゆまぬ日常を送る彼女を讃えるつもりでその話題をまず振ったのですが、なんとなく反応が悪かったのです。

実はしじみさんのブログの書き込みで、地震の直後に撮影とは不謹慎だとバッシングする人がいて、それを彼女は気にしていたので表情が曇っていたのでした。

そこで、小林よしのりさんやよしりん企画のトッキーさんやみなぼんさんも「映画もいいし、しじみさんの演技もよかった」と感心した映画『終わってる』の話題から始めようということになりました。今回のゲストの、作家であり演出家である前川麻子さんも『終わってる』を見てしじみさんのファンになり「ぜひ本人に会いたい」と、なんと番組始まって以来のゲストからのラブコールで実現したこともあり、その話題で冒頭撮り直しました。

しじみさんには『せつないかもしれない』のようなトーク番組にも出てもらって、本を読んだ感想を自身の言葉でヴィヴィットに語ってくれていますが、普段は女優であり、いわゆる言論の人ではありません。ですからブログで「不謹慎だ」と言ってくる人に対しても配慮するのはわかります。自分のブログを見ているファンの中に震災で傷ついた人がいたかもしれないということも、頭をよぎったのかもしれません。

しかし、そんなことにまで「不謹慎だ」というのは、やはり過剰反応だと思います。
もちろんしじみさんのファンの多くは震災の日に、僕たちが愛するしじみさんは大丈夫だろうかと、心配の声をブログに寄せていました。
そこに、元気に撮影しているよ、と笑顔を見せることのなにがいけないのでしょう。

12日にしじみさんが撮影していた映画がその後完成し、初号試写をおととい見に行きました。
監督の吉行由実さんとお話したら、当日室内の家族団欒シーンのために千葉にあるスタジオを借りていたのだけれど、念のため都内にある監督の住むマンションの一室に変更して撮影したということを聞き、けっしてなんでもかんでも予定通りに強引に進めていた撮影ではなかったことを知りました。

しかも撮影の数日後、監督の郷里である福島のご両親が放射能疎開でいまその自宅マンションに身を寄せておられ、しかし「家に帰りたい」と心理的に不安な毎日を過ごされているとのこと。
いつも初号試写の後にはスタッフや関係者の打ち上げが行われるのですが、その日は試写が行われた現像所にて現地解散となりました。

「やっぱり両親が心配だから」という監督の言葉を聞いて、日常を築き上げてきた歴史のある場所から引き離され、いつ戻れるのかというご両親の思いが伝わってきたような気がしました。

初号試写の前日、ご両親は靖国神社に参り、英霊となった親族とこの機に再会されたとのこと。

非日常の断絶を抱えながら、自らのなすべきことを手放さない。おそらくいまは誰もが、その例外ではないでしょう。
そんな毎日だからこそ、顔を上げて生きている姿をお互い見せ合うことこそが、励ましになるのではないでしょうか。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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